牧野聖修 [民主党静岡第1区] 本文へジャンプ

安部総理辞任劇に思う



政権担当能力を失った自民党


 去る9月12日、突如安倍首相は辞意を表明した。10日に臨時国会が開会した矢先の出来事であった。所信表明演説をしてから僅か2日後の首相辞任というのは、憲政史上かつて例を見ない稀有な出来事である。

 安倍首相の口からは辞任の本当の理由らしいものは聞かれなかったが、大勢は「健康上の理由」でこの件については幕引きをしてしまおうとする流れが窺える。ただ、国民のほとんどはすでに朝青龍関の件で学習している為、「健康上の理由」など端から信じていないであろう。

 また安倍首相の「麻生幹事長に騙された」という言葉どおりに、もし政権内での確執で私怨によって国政を放擲したのだとすれば、それは国民に対する背信行為であり、断罪せられるべき問題である。

 ちなみに15日発売の「週刊現代」では、安倍首相の3億円にも上る相続税の脱税問題が報じられた。これが12日辞任発表の直接的原因だとする人もいる。

 ともかく、臨時首相代行すら立てられることなく、国会は全く機能せず、毎日3億円もの国費がドブに消えてゆく。

 自民党はすでに政権担当能力を失っていると言って良い。



官僚のクーデターで崩壊した安倍内閣


 ただ、安倍首相辞任の真相は、もっと奥深い所にあると考えられる。

 一昨年、小泉内閣が郵政民営化の選挙で大勝した時、田原総一郎氏は小泉首相に「大勝したのだから公務員制度改革をやればいいじゃないか」と言ったのに対し、小泉首相は「冗談じゃない」と即答した、という。

 田原総一郎氏のブログ内容を要約すると、それは以下のような理由による。

 10年前、橋本龍太郎元首相が行政改革に取り組み、公務員の数と給料を減らし、官房長が握っている天下りの権限を奪おうと試みた。すると、これに全省庁が協力すると言って官僚が集まったが、それは実は全く逆で、いかにこの改革を骨抜きにするかということが集まった目的だった。そしてこの時官僚たちは、「公務員の数や給料を減らすのは枝葉末節なことであって、もっと根本的な改革をしなければならない」と言って、省庁再編をやってしまった。

 かくして、公務員の数と給料を減らし、天下りを無くすはずの「改革」が、省庁の数を減らすだけで、結局何も変わらなかった。「省庁再編」という、いかにも大仰な言い方だが、実態はなにも変わらなかった。つまり「行政改革」は完全に失敗だったということになる。

 つまり小泉前首相が田原氏に言いたかったことは「最初から行政改革をやると言っていた橋本内閣でもできなかったことを、自分ができるはずがない」というわけである。

 しかしながら安倍内閣は、かつて橋本元首相が挫折し、小泉前首相ですら手をつけられなかった、タブーである2つの改革をやろうとした。

 1つは「社会保険庁の解体と民営化」、もう1つは「公務員の天下りの改革」であり、これまで各省庁の官房長が握っていた天下り斡旋の権限を奪おうというものである。

 田原氏によると、これこそが、安倍政権が窮地に追い込まれた最大の原因であり、改革に反対する社会保険庁が挙ってクーデターを仕掛けたのが、今年一挙に噴出した年金騒動であるという。つまり、社会保険庁の年金が滅茶苦茶な状態であるということを、社会保険庁自らがリークすることによって、安倍政権を転覆しようとしたというのである。

 そのため社会保険庁は、政府・官邸には何も報告しない一方で、民主党の長妻議員をはじめ、野党、週刊誌、新聞に対して、いかに年金の記録が杜撰であるかといった実態を次々と暴露したという。

 こうすることで、参議院選挙で自民党を敗北させて安倍首相を退陣させれば、社会保険庁改革そのものが消え去るというわけである。

 かくして社会保険庁は、田原氏の表現を借りれば、「自爆テロ的リークをもって、安倍内閣がいかに信用できない内閣か、いかに危機管理能力のない内閣か、いかに不甲斐ない内閣かということを満天下に知らしめたのだ」。

 もう一つが天下りであり、「官民人材交流センター(新・人材バンク)」は、官僚の天下りの権限を官房長から取り上げるものであり、この改革には、全省庁が反発している。

 そこで社会保険庁と全省庁がこれらに猛反発して、官僚のクーデターが起きているというのが今の状況だという。



真の国民の敵との闘いに向けて


 行政改革あるいは公務員制度改革というのは、全官僚を敵に回して進める改革であるから、他の政策のように政府が官僚に指示すれば済むようなわけにはいかない。

 その点、安倍首相は考えが甘すぎた。ある意味で世間知らずであったとも言える。官僚のクーデターに遭えば、残された道は内閣の退陣しか無いであろう。

 とりわけ、舛添厚生労働大臣のように、「役人を牢屋に入れる」などと、官僚制への強硬な対決姿勢を前面に出した大臣は前例が無く、それだけに官僚達が「何としても安倍内閣そのものを空中分解させねばならない」と決意を固めた事は想像に難くない。

 このように、安倍首相は社会保険庁解体と公務員制度改革によって、官僚制の虎の尾を踏んでしまい、安倍政権の寿命を縮めるどころか突然死に追い込まれてしまったのである。

 今、最も笑いが止まらないのは、舛添大臣によって首を飛ばされそうになっていた年金着服の役人達であろう。

 それだけでなく、社会保険庁の解体民営化も、新人材バンクも、安倍内閣が退陣したら全て水に流される可能性がある。

 いずれにせよ、福田次期政権が出来れば、社会保険庁解体と公務員制度改革は完全に骨抜きにされてゆくであろう。

 7・29参院選において、国民は小泉「改革」路線に対して「No」の審判を下し、明確に国民の意思が示された。

 だが、そうした国民の声を無視して、福田次期政権は「小泉の七光り」によって、すでに国民に否定された「改革」路線に依然としてしがみ付こうとするであろう。

 次期政権が官僚の操り人形になるだけの内閣に逆行するのであれば、もはや不要である。

 我々は、真の国民の敵の姿を正しく見極めなくてはならない。

 安倍内閣を倒したと言って喜んでいる暇など無いのだ。

 これからはさらに官僚迎合型の内閣が続くであろう。

 かつて特別会計の実態を暴こうとした石井紘基議員は暗殺された。

 官僚制を敵に回した政治家の死屍が累々と連なるのが、この国の政治の宿命とも言えそうである。

 しかしながら、我々は政治を国民の手に取り戻すまで、決して諦める事は無い。


[2007.9.20]