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「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













日本政府が早急に取り組むべき人権問題


西側先進諸国は日本をどう見ているか


[2021.5.10]




ロンドンで開催されたG7外相会合。2列目中央は茂木外相
PHOTO(C)AP


人権問題が主要テーマとなったG7外相会合


 5月3日から英国ロンドンで開催された主要7カ国(G7)外相会合は5日に閉幕し、共同声明が発表された。

 共同声明では、中国の東シナ海や南シナ海での海洋進出に懸念が示され、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」とし、また、台湾が世界保健機関(WHO)の会議に参加する事への支持も表明された。

 G7の共同声明で台湾に言及するのは初めての事であり、中国が「核心的利益」と位置づける台湾問題について、G7が一致した対応を示した意義は大きい。

 さらに共同声明では、新疆ウイグル自治区やチベットでの人権侵害、香港の選挙制度の民主性を壊す決定などにも深刻な懸念を示した上で、中国に対し「人権および基本的自由を尊重するよう求める」と明記された。

 特にウイグル問題では、強制労働や強制不妊の報告を重視し、実態調査の為の国連人権高等弁務官の現地入りを求めている。

 また共同声明は、ミャンマーにおける国軍によるクーデターを強く非難し、アウン・サン・スー・チー氏を含めた被拘束者の即時解放と、民主的に選出された政府による統治を求めた。

 ロシアについては、反体制派ナワリヌイ氏の逮捕・拘束を非難し、ウクライナ国境付近の軍の増強には「無責任で不安定化を招く行動」と懸念を示した。

 以上は共同声明の一部であるが、今や先進国家間においては、人権問題が主要なテーマとなっている事が分かる。

 一方、日本の茂木敏充外相は、会合後の記者会見で「G7が結束して国際社会をリードすることを確認できた」などと成果を語っていたが、「人権問題」に対する日本政府の曖昧な態度が、欧米先進諸国から警戒されているという自覚は全く無かったようである。

 今回のG7外相会合では、日本の出方を各国が注視していた事を知らなければならない。

 近年激しさを増す中国当局による香港民主派や新疆ウイグルの少数民族に対する人権弾圧に対し、欧米諸国はこれまでに様々な対中制裁を実行してきた。

 それにも関わらず、日本政府は何一つ各国と歩調を合わせることなく媚中外交を続け、西側諸国の結束を乱し、あたかも隣国の人権侵害など眼中に無いかの如く振舞ってきたのである。



人権問題を無視し続けた日本政府


 米国政府は今年3月22日に、中国新疆ウイグル自治区の少数民族に対する人権弾圧に関わったとして、同自治区の高官ら2名を制裁対象とし、彼らの米国内での資産を凍結するとともに、米国人との取引を禁じた。

 同日、EU、英国、カナダも対中制裁措置を発表した。EUが制裁対象としたのは、自治区の副主席で公安トップの陳明国氏ら4人と1団体であり、EUへの渡航禁止や資産凍結が科された。EUと英国が、人権に関する制裁を中国に科したのは、1989年の天安門事件以来32年ぶりのことである。

 さらに米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国の外相は、「我々は一致して、少数民族に対する弾圧をやめ、拘束された人々を解放するよう求める」とする共同声明を発表し、国連などによる独立した調査を受け入れるよう中国に要求した。だが日本はこの時、共同声明に加わらなかった。

 加藤官房長官は、3月23日の記者会見で「人権問題のみを直接あるいは明示的な理由として制裁を実施する規定はない」などと発言している。明らかに官僚が作成した作文の朗読のようであったが、仮に「現行の法制度が対中制裁の制約要因になっている」と官僚から説明された場合には、本来ならば政治家は当該法律の改正を国会に問うて審議するべき案件のはずであった。

 因みに、「制裁」措置を発動する場合は、外国人の「資産凍結」等の経済制裁を科す「外国為替管理法(外為法)」が適用されることになる。ただし、現行の外為法は「制裁」の要件として、「国際平和のための国際的な努力に寄与する」「わが国の平和および安全の維持」との規定があるだけである。その為、「人権弾圧」を理由にして「制裁」措置を実行できない、というのが政府の説明である。

 かくして日本は、ウイグル人権問題を理由にする対中制裁措置には一切加わって来なかった。米国からは足並みを揃えた行動を求められたはずであるが、日本政府は応じなかった。

 こうした中で開催されたのが今回のG7外相会合であり、当然の成り行きとして、日本の対応が各国の注目の的となった。

 対中政策については、日本政府には「前科」がある。

 1989年の天安門事件直後、西側諸国が一致団結して対中制裁をしていた際に、日本が西側諸国を裏切る形で対中支援を開始した為に、それまで瀕死状態だった中国が息を吹き返し、30年後の現在では、依然として人権弾圧を続ける中国が世界人類にとって脅威の存在となってしまった。

 そうして現在においても日本政府は、香港や新疆ウイグルやチベットを見殺しにすることで、事実上、中国の人権弾圧政策を黙認しているのである。

 人権重視の欧米諸国は、果たして日本が西側陣営の一員として本当に信頼できる国なのかどうかを見極めようとし、日本政府の行動に注意を払っている。

 その意味では、今回のG7外相会合の共同声明に日本が参加した事の意義は大きい。

 ただし現在のところ、日本政府は人権問題で対中制裁措置を実施するかどうかについて未だに方針を明らかにしていない。

 今回のG7外相会合で茂木外相が日本国を代表して共同声明に署名した以上、日本政府の名において「対中制裁」は必ず実行してもらう必要がある。

 これは、今後の日本が世界から孤立するかどうかの分岐点になるだろう。



なぜ日本政府は「対中制裁」が出来ないのか



 日本政府にとっての「中国問題」とは、民主主義の問題でもなければ人権問題でもなく、「尖閣諸島を米国が中国から守ってくれるかどうか」が最大の関心事となっている。

 すでに日本経済は中国経済とは切り離せない状況に置かれている。

 香港や台湾も中国との経済的結び付きが強い為、「反中国」で一枚岩になる事が困難で、市民社会が分断されているのが実情である。こうした事情は日本も同様であり、日本社会においても分断が進行している。

 ただし日本政府が「対中制裁」に踏み切れない理由は、経済的な要因だけではない。

 まず日本には、人権に関する憲法上の規定や法的枠組みが存在しない。存在したとしても抽象的で曖昧な表現の為、存在しないのと同様である。その必然的帰結として、日本政府は世界の「人権問題」にほとんど関心が無い。

 日本政府が「人権」を重視していないが故に、中国における人権侵害や人権弾圧に対しても無頓着であり、その結果、日本が世界各国から不信感を抱かれることになってしまうのである。

 日本政府の「人権軽視」の一例を挙げると、これまでに国連人権理事会や自由権規約委員会からの勧告があったにも関わらず、日本にはまだ「国内人権機関(NHRI)」を設置する為の活動が見られない。

「国内人権機関」とは、裁判所とは別に「人権を推進する目的を持つ国家機関」であり、欧米先進諸国では当たり前に存在している。

 また、日本は国連総会で採択された「自由権規約選択議定書」を批准していない。

 1966年12月16日、国際連合総会において「市民的及び政治的権利に関する国際規約(=自由権規約)」が採択された際に、同規約の個人通報制度を定めた多国間条約として「選択議定書」が採択された。

 この選択議定書は、人権条約に定める権利を侵害された個人が実施機関に通報を行うことができる個人通報制度について定めたものであるが、この議定書を日本政府が認めていないことにより、日本国民は人権侵害を国際機関に訴えられない状態に置かれている。



「犯罪抑止」の為にこそ死刑制度は廃止すべき


 さらに日本は、自由権規約の「第2選択議定書」、別名「死刑廃止議定書」を承認しておらず、死刑制度廃止への動きを見せていない。

 日本では2014年から2020年までに31名の死刑が執行され、現在でも110人に上る死刑確定者が存在している。

 この為、日本との間に「犯罪人引渡し条約」を締結しているのは、米国と韓国のたった2カ国のみである。

 相手国側の立場としては、日本には死刑制度が存続し、引き渡した自国民が死刑にされる恐れがある為、日本との間に「犯罪人引渡し条約」を結べないというのが主な理由である。あたかも幕末の安政条約の時のように、日本は諸外国から「野蛮国」扱いされていることになる。

 因みに、英国は120カ国、フランスは100カ国、米国は70カ国、韓国は25カ国との間に「犯罪人引渡し条約」を締結している。

 我が国において死刑存続論の最大の論拠として主張されているのが「犯罪抑止」の論理である。

 しかしながら、「犯罪人引渡し条約」を締結していない国に逃亡しさえすれば捕まらない状況であれば、むしろ凶悪犯罪が助長される事になり、日本国内の治安は悪化の一途を辿るだけである。

 グローバル化した社会においては、死刑制度の存続によって「犯罪抑止」どころか、逆に国内の凶悪犯罪を増加させる結果になる。

 真に「犯罪抑止」を考えるのであれば、むしろ死刑制度を廃止し、多数の国々との間に「犯罪人引渡し条約」を締結した方が、遥かに強い犯罪抑止力になるはずである。

 他にも、日本の死刑制度の現状には、国際条約と相入れない複数の問題点が見られる。

 第一の問題は、上訴中の死刑執行である。

 上訴中のオウム真理教信者10人を含む13人の死刑囚が、2018年7月に刑を執行されたが、恩赦や減刑を申し立てしている最中に死刑を執行することは、国連決議で禁止されている事であった。

 第二の問題は精神疾患者への執行である。

 国際基準では、精神疾患者や知的障碍者への死刑執行は禁じられているが、日本では死刑確定者の精神状態を精査することなく刑を執行している。

 幼女連続殺害事件の犯人や大阪池田小児童殺傷事件の実行犯は、どちらも精神疾患の症状が明らかであったにも関わらず、死刑が執行された。

 ここで重要な点は、上記のいずれの死刑も「遺族感情を考慮」という前近代的な「復讐法」の概念に基づいて執行された事である。

 こうした前近代的法理を根拠とした刑の執行は、国際基準から外れた「反人権的」な行為であり、日本の国際的信用を大きく毀損する措置であったと言える。

 日本がこのような人権状況である為に、日本政府が「人権問題」で正々堂々と中国を批判する事が出来ない状態に置かれている側面もあるだろう。

 アムネスティが死刑制度について日本へ勧告している主な内容は、「現状存在する死刑判決を拘禁刑にすること」「自由権規約第2選択議定書を批准すること」「死刑確定者の精神状態を調査すること」「その他国際基準にあった措置を導入すること」というものである。

 西側先進諸国と歩調を合わせて日本政府が「人権問題」で中国に制裁を科す為には、先ずこれらの国内課題をクリアーしておかなければならない。

 少なくとも中国から「人権問題で日本に批判される覚えは無い」などと言われないように、日本の人権状況を国際基準に合わせてゆく努力が必要である。

 日本が「人権国家」を目指す事は、今後の日本が世界の中で生き残ってゆく上で必ず通らなければならない道なのである。



日本版「マグニツキー法」制定の動き


 現在、日本国内では、外国で起きた重大な人権侵害に制裁を科す日本版「マグニツキー法」の議員立法を目指す動きが始まっている。

 これは、世界各地での人権侵害行為に対する制裁を可能にする法案である。

 法案の名称の由来となったロシアの弁護士セルゲイ・マグニツキー氏は、法執行機関と税務当局を相手に2億3千万ドルもの巨額横領事件を告発した後、1年以上もの間モスクワで拘留されて拷問や激しい暴力を受け、2009年に37歳の若さで獄中死した。

 当時オバマ政権の米国は、この事件を受け、2012年にロシア当局の事件関係者のビザ発給禁止や資産凍結を行う「マグニツキー法」を制定した。

 さらに2016年、米連邦議会は適用対象を拡大した「グローバル・マグニツキー人権責任法」を可決した。これは、米国政府が、世界中のあらゆる場所で人権侵害に関与している外国政府職員を制裁することが出来るという法律である。

 この潮流は各国に波及し、2017年には、カナダ下院でマグニツキー法のカナダ版にあたる「国外の腐敗高官の犠牲者に報いる処罰法」(Justice for Victims of Corrupt Foreign Officials Act)が満場一致で通過した。

 また2019年12月には、EUがマグニツキー法に類似した法案を設定することに合意し、2020年7月には、英国で北朝鮮とロシアの49の個人・組織に対してマグニツキー法が発動された。

 一方、日本の現行法には、先にも述べたとおり、「人権侵害」だけを理由に制裁を科す規定が存在しない。

 そこで昨年の香港国家安全維持法の施行後に発足した超党派の「対中政策に関する国会議員連盟」の議員達が、日本版「マグニツキー法」の成立を目指して活動を始めている。

 親中派で固められた外務省などは、一部議員達のこうした動きに警戒を強めているようである。

 だが、日本版「マグニツキー法」は、中国だけを対象にしたものではなく、ミャンマー問題やロシア問題にも適用される法律になるものと考えられる。

 もともと米国でロシアをターゲットとして成立した「マグニツキー法」が、その後、グローバルに対象を拡大したように、日本版「マグニツキー法」も世界の人権問題を対象にする必要がある。

 そうして、日本が世界中の人権侵害に対して関心を有する国家であるという姿勢を見せる事が出来れば、今後の日米同盟も内実の伴った強固なものになってゆくであろうし、またEUや英国やカナダなどの人権国家とも歩調を合わせ、世界から信頼される国になり得るだろう。

 これとは逆に、「国内法が無いから何もしない」などと従来どおりの事なかれ主義の外交政策を続けた場合は、やがて西側同盟から日本が外され、世界から孤立してしまう事を知らねばならない。











《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




 定款(PDFファイル)




《連絡先

一般財団法人
人権財団本部
〒100-0014
東京都千代田区永田町2-9-6
十全ビル 306号
TEL: 03-5501-3413