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「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













香港民主派前議員等大量検挙に抗議する


ディストピア社会に向かう中国


[2021.1.15]




昨年11月、抗議の辞職を表明した香港立法会の民主派議員達
PHOTO(C)CNN

個人独裁体制へと回帰する中国


 新年が明けるや否や、中国では「中国共産党党員権利保障条例」が改正された。この条例は2004年に発布されたが、更新されたのは今回が初めてである。

 今回の条例改正の本質は、9000万人の党員に対する統制と習近平個人崇拝の強化にある。

 まず、旧条例の冒頭にあった「民主集中制を堅持する原則」「党員権利の正常な行使が保障され侵犯を受けない」といった党員の権利に関する内容が全て削除され、習近平への忠誠を要求する内容が新たに書き加えられた。

 また第2条では、旧条例の「マルクス・レーニン主義、毛沢東主義、鄧小平理論の3つの代表重要思想、科学的発展観による指導を堅持し」との表現が、「マルクス・レーニン主義、毛沢東主義、鄧小平理論の3つの代表重要思想、科学的発展観、習近平の新時代中国社会主義思想による指導を堅持し」と修正された上、さらに「4つの意識を増強し、4つの自信を堅持し、2つの擁護を行う」と付け加えられた。

 ここで注目すべきは、「マルクス・レーニン主義、毛沢東主義、鄧小平理論の3つの代表重要思想」と、「習近平の新時代中国社会主義思想」とを、同格扱いで並列記述した点である。

 あたかも習近平の思想は、マルクス、レーニン、毛沢東らの思想を全て合わせた位の偉大な思想であり、鄧小平の「理論」などは習近平思想の足元にも及ばないのだという事を、新条例では表現していることになる。

 また、後半の「4つの意識」「4つの自信」「2つの擁護」という表現を加えた事には大きな意味がある。

「4つの意識」とは、習近平が2016年に提唱して党員に要求した「政治意識」「大局意識」「核心意識」「看斉意識」である。

「看斉」とは、「見習え」「考えを一致させよ」という意味であり、具体的には「習近平を見習え」「習近平の考えに自分の考えを一致させよ」という事である。

「4つの自信」とは、従来あった「3つの自信」(=中国の特色ある社会主義の道、理論、制度への自信)に習近平が「文化の自信」を加えて打ち出したスローガンである。

「2つの擁護」とは、「習近平総書記の核心としての地位を断固として擁護すること」および「党中央の権威と集中統一指導を断固として擁護すること」の2つを指す。

 このように今回改正された条例では、習近平個人への絶対的な忠誠と服従を全党員に要求するべく修正された。

 今や中国共産党は、党員9000万人の「金太郎飴」の集団と化し、中国はいよいよ北朝鮮顔負けの個人独裁体制へと移行しようとしている。

 かつて文化大革命で迫害された鄧小平が復権後に確立したのは集団指導体制であり、それは毛沢東時代のような個人崇拝を防止する為の措置であった。

 しかしながら、毛沢東主義者である習近平は、鄧小平以来の集団指導体制を全否定し、再び毛沢東時代のような個人独裁体制の確立を目指している。

 個人独裁の下、国民全体を監視して言論弾圧する中国を、米国のマイク・ペンス副大統領は2018年の演説で、「ジョージ・オーウェルの『1984年』の世界に他ならない」として非難した。

 オーウェルが『1984年』で描いた架空のディストピア社会は、中国において現実のものとなりつつある。

 中国を陥れたり、中国に不利になるような情報を発信したり伝達した人物は、国家情報法や国家安全維持法などの法律によって犯罪者に仕立てられ、拘留され、裁判にかけられ、場合によっては死刑にされる。また、そうした危惧から、誰一人として自由な発言が出来ない状態に置かれている。

 中国国内は、至る所に設置されたカメラとネット監視網により、SNSなどでの発信の分析による人物の特定が為され、さらにそれを取り締まる各種法律により、党や政府への批判はもとより、今ではコロナ禍の事実さえ語る事を許されない状況にある。

 そして現在、香港の人々は、このようなディストピア社会に呑み込まれてしまわない為に、自由世界の防波堤となって闘い続けているのである。



香港民主派の「攬炒十歩」計画


 1月6日、香港立法会の民主派前議員や区議会議員など53人が逮捕された。

 今回逮捕されたのは、昨年9月に予定されていた立法会議員選挙に向け、民主派の候補を絞り込むために昨年7月に実施された「予備選挙」に参加した人々であった。

 民主派は、立法会の過半数を占めることで香港政府の予算案を否決し、香港政府トップの行政長官を辞任に追い込む事などを目標に掲げていた。そして「予備選挙」は、直接選挙枠で民主派候補が乱立して共倒れになる事を防ぐ目的があった。

 これに対し香港政府当局は、香港には予備選挙制度が無い為、「予備選挙そのものが国家安全維持法(国安法)違反に相当する」とした。

 ただし大量逮捕の要因としては、香港民主派による「攬炒十歩」計画の存在が大きいと見られる。

「攬炒(ラムチャオ)」とは、「敵に抱きついて(攬)落ちる」即ち、相手を道連れにして死ぬという事で、「死なばもろとも」という意味である。

 前回の2016年の立法会議員選挙では、定数70名の内、親中派40名、民主派30名の議席となっていたが、過半数を目指す民主派は、コロナ禍で1年延期された立法会選挙に向けて「攬炒十歩」計画を進めてきた。

「攬炒十歩」計画は、2020年4月28日に民主派メディア『リンゴ日報』に掲載された計画であり、計画立案者の戴耀廷氏は予備選挙の主催者の一人であり、今回の逮捕者の一人でもあった。

 この計画には、「第一歩」から「第十歩」までがあり、最後の第十歩の段階で「攬炒」を決行するというものである。

「攬炒十歩」計画の概要は、以下のとおりである。

第一歩 (2020年7~8月):
 香港政府が民主派の立法会選挙立候補資格を取り消した場合、民主派はプランB(複数の立候補者を立て、Aの立候補資格が取り消されたら、Bが立候補する)で選挙に参加する。

第二歩 (2020年9月):
 香港マカオ弁公室と中央政府駐香港連絡弁公室の介入およびDQ(資格取り消し)が行われたら、より多くの香港人が民主派に投票するように刺激して呼びかけ、最終的に35席以上(=過半数)の取得に漕ぎ着ける。

第三歩 (2020年10月):
 香港行政長官および 律政司が法的措置を用いて民主派議員の資格を取り消した場合、法廷措置には時間がかかるので、民主派議員は引き続き立法会を主導する。

第四歩 (2020年10月~2021年4月):
 香港政府が立法会に提出した全ての予算案が否決され、香港政府が機能しなくなる。

第五歩 (2021年5月):
 立法会が政府の財政予算案を否決し、香港行政長官が立法会を解散し、臨時予算を使って政府の運営を維持する。

第六歩 (2021年10月):
 立法会再選挙実施。民主派のプランBも資格を取り消されるだろうから、その場合、プランC(3人目の候補者)を立候補させる。それでもなお35席以上(=過半数)を民主派が取得する。

第七歩 (2021年11月):
 立法会が再度、財政予算案を否決し、香港行政長官は辞任し、香港政府は閉鎖する。

第八歩 (2021年12月):
 中国全人代常務委員会が「香港が緊急事態に突入した」と宣言して、中国の国家安全法を直接香港に適用し、香港立法会を解散して、臨時立法会を設立させる。次期香港行政長官は選挙によってではなく協議によって選び、民主派のリーダーを一気に大量逮捕する。

第九歩 (2021年12月以降):
 香港社会におけるデモはさらに激烈になり、鎮圧の仕方もより残虐になる。香港人がストライキに突入し、香港社会は機能を失う。

第十歩 (2022年1月以降):
 西側諸国が中国共産党に対して政治的ならびに経済的制裁を行う。なお、この「第十歩」に至った段階では、我々は「中国共産党と共に崖から飛び降りる(=攬炒)」覚悟が出来ており、その後何が起きるかは明示する事は出来ないが、すでに香港の問題の枠を超えている為、後は国際社会に任せるしかない。

 以上が「攬炒十歩」計画の概要である。

 それに対し、香港警務処国家安全局の李家超局長は、「攬炒十歩」計画が香港政府機能を破滅に追いやることを狙っており、これを座視すれば香港の死を意味し、香港が再び立ち上がることは困難になるとして、関係者に国家安全法の国家政権転覆罪を適用し逮捕したと述べた。

 一斉取り締まりでは1000人を超える警察官が動員され、企業や民家、法律事務所や報道機関の家宅捜索が行われた。既に香港国家安全維持法違反の罪で起訴されている黎智英(ジミー・ライ)が創業した新聞社「蘋果日報(アップル・デイリー)」も家宅捜索を受けた。

 8日、香港警察は6日に逮捕した53人のうち52人を保釈した事を明らかにした。今後は起訴に向けて捜査するという。



中国共産党および中華人民共和国の解体を


 時代の変化は加速度を強めて進んでおり、昨年4月の段階で「攬炒十歩」計画を立案した戴耀廷氏が予想していたタイムプログラムは、1年近くも前倒しされてしまったようである。

 現時点の状況はすでに「第八歩」目あたりと見られる。

 そして、「第十歩」目において、香港の未来を国際社会に任せるのが最後の手段という事になる。

 しかしながら、彼等が生命を賭して訴えている事を、果たして国際社会が正しく受け止める事が出来るかどうかは、甚だ疑問と言わざるを得ない。

 コロナ禍で経済的に打撃を受けている米国や日本の政権当局者は、今後は対中抗議パフォーマンスだけは続けながらも、一方では、経済再生と財界の支援を得る為に、対中宥和・対中協力政策へと舵を切る事が予想される。

 香港民主派の人々が夢見ているのは、単なる「一国二制度」の存続などではない。

 たとえ英中共同声明で保障された「一国二制度」の下で自由や民主主義が維持できたとしても、中国共産党と中華人民共和国が存続し続ける限り、2047年7月1日午前零時には「一国二制度」が終了し、香港の自由と民主主義が永久に失われる事は確定している。

 現在、香港の人々が死を賭して闘っているのは、「2047年7月1日午前零時」までの自由の為ではない。

 彼等が望んでいるのは、中国共産党および中華人民共和国という国家からの解放であり、抑圧なき社会の実現に他ならない。

 香港民主派が掲げた「攬炒」計画は、中国共産党を道連れに「死なばもろとも」との覚悟を示している。

 国際社会による香港支援は、中国共産党および中華人民共和国の解体を目指したものでなければ、本当の意味での香港支援にはならない事を肝に銘じるべきであろう。











《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




 定款(PDFファイル)




《連絡先

一般財団法人
人権財団本部
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