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FMラジオ番組
「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













米国の対中戦略と日本の選択


日本政府に求められる具体的行動


[2020.6.15]




中国海軍の094型原子力潜水艦
PHOTO(C)REUTERS



中国の海軍力が海上自衛隊を上回る


 先月、中国海軍が日本の海上自衛隊に対して大幅に優位に立った事が明らかになった。

 ワシントンの安全保障研究機関「戦略予算評価センター」(CSBA)が5月中旬に公表した「日本の海洋パワーに対する中国の見解」と題する調査報告書によれば、「中国はこの5年ほどで海軍力を劇的に増強し、日本に対して大幅な優位を獲得した」という。

 同報告書の概要は次のとおりである。



■ 中国人民解放軍の大規模な海軍増強は、習近平政権下の過去5年ほどで海軍艦艇の総トン数や性能・火力等が画期的に強化されてきた。

 特に艦艇装備のミサイル垂直発射装置(VLS)の増強は、日本を圧倒するようになった。

■ 日本の海上自衛隊はこれまでアジアでの主要な海洋パワーとしての戦闘力や抑止力を保持してきたが、今では中国に確実に後れをとり、その能力逆転は、極東における戦後の重要なパワーシフトである。

■ 中国は、尖閣諸島奪取や東シナ海の覇権獲得において日本を屈服させることが容易になったとみて、躊躇なく軍事力を行使し得るようになった。

■ 中国は、尖閣占領の際には日本側を敏速に圧倒し、米軍に介入をさせない具体的なシナリオを作成した。

■ 中国は、日本との全面戦争も想定し、その場合には中国側の各種ミサイルの威力で日本の防衛力を崩壊させる自信を強めている。

■ 中国の対日軍事力強化の背景には、中国による尖閣奪取、東シナ海における覇権確立、日米安保の弱体化、米軍の東アジアからの駆逐、等々の中長期の戦略目標が存在する。




 以上が報告書の概要であるが、これが事実であれば、この5年間で極東のパワーバランスは完全に逆転したことになる。

 中国の海軍力が海自を大幅に上回ったのであれば、中国軍による尖閣諸島の占領は、秒読み段階に入ったと言えよう。

 香港や台湾の人々の間では、「今日の香港、明日の台湾」と言われているが、より正確に言うならば、「今日の香港、明日の尖閣、明後日の台湾」である。

 中国が台湾へ武力行使をする前に、先ず尖閣諸島を占領することは、専門家の間では確実視されている。

 中国が尖閣にこだわる理由は、何も海底油田だけではない。むしろ海底油田のプライオリティは低いと見られる。

 尖閣諸島は、沖縄米軍基地と台湾を結ぶ線上に位置しており、ここを中国に占領されれば、台湾と米軍とのラインが遮断されることになる。

 さらに中国にとって尖閣諸島は、台湾攻略の橋頭堡となり得る位置にあり、台湾の死命を制する地政学的要衝なのである。

 したがって、中国が台湾を攻める際に、前もって尖閣を占領しておく事は、軍事的には常識とされている。

 実のところ、「尖閣諸島の領有権」を、中国だけでなく台湾が主張している理由も、こうした事情にある。

 台湾の国防上、極めて重要な戦略的要衝である尖閣が、現在のような「無人島状態」にあることは、台湾にとって極めて危険な状況である為、尖閣に日本の自衛隊基地が置かれないのであれば、尖閣が中国に取られてしまう前に、台湾自らの手で確保しておきたいということなのである。



米国の明確な対中戦略


 5月末、ホワイトハウスは米連邦議会に対し、「米国の中国に対する戦略的アプローチ」と題する公式文書を送った。

 これは、すでに対中全面対決の方針を固めたホワイトハウスが、米上下両院に協力を求める目的で、新対中政策の骨子を説明したものである。

 この公式文書は、米国の具体的な新対中戦略が多分野にわたって記されており、我が国の今後の外交を考える上でも重要である。

 同文書の概要は下記のとおりである。



 米国は、1979年の中国との国交樹立以来、中国が「より豊かに、より強く」なれば、米国主導の国際秩序に加わり、国内的にも民主化を進めるだろうという期待に基づいて関与政策を進めてきたが、この政策は失敗した。

 中国は「より豊かに、より強く」なったが、共産党政権による非民主的な国内弾圧は強まり、対外的にも米国主導の「開放的で自由で法の支配に基づく民主的な国際秩序」を侵し、周辺諸国に対して軍事、政治、経済の各手段で自国の意思を強要するようになった。

 米国の責務は、西側陣営の価値観や制度を守り、その正当性を証明し、中国の制度や価値観の世界への拡大を防ぐ事にある。

 また、インド太平洋において、日本やインド、オーストラリアなどとの団結を強め、中国の危険な行動を抑止しなければならない。

 現在の中国は、「経済」「価値観」「安全保障」の3方面で米国に闘争を挑んでいる。


「経済」における確執

■ 中国は「一帯一路」構想を通じて、自国の非民主的、不透明な制度を国際的に拡大しようとしている。

■ 中国は2001年から世界貿易機関(WTO)に加盟しているが、同機関の規則を守らず、自国の不当な市場や生産構造を改善しようとしない。

■ 習近平政権は、自国産業への違法な政府補助金供与などを停止すると公約したのに止めていない。

■ 知的所有権についても、米国企業の知的所有権を違法に使用し続けている。全世界の偽造商品の63%は中国産である。

■ 環境保護でも中国は国際的な合意や規則を無視している。


「価値観」における確執

■ 中国共産党はマルクス・レ―ニン主義に基づく政治システムを構築し、国家や政府を共産党に従属させている。

 この政治システムは、米国の自由な競争や個人の権利に基づく原則と衝突する。

■ 中国は、国際的にも中国型の独裁統治を拡大しようとしている。

 その統治は、競合政党の駆逐、政治活動家への不当な迫害、市民団体の抑圧、言論の検閲と弾圧などが主軸である。

■ 中国は、新疆ウイグル自治区、チベット自治区においてウイグル人やチベット人を組織的に弾圧し、国内においてはキリスト教徒、仏教徒、法輪功・気功集団などの抑圧も進めてきた。

■ 中国共産党政権のイデオロギー的画一性の追求は国内に留まらず、中国共産党の政治思想を対外的なプロパガンダとして世界各国へ発信している。また、統一戦線工作による諸外国への干渉も目立つ。

■ 中国は、米国、オーストラリア、英国などの市民団体、スポーツ組織、学術団体に影響力を行使し、外国のメディアにも圧力をかけている。


「安全保障」における確執

■ 中国政府は軍事力の行使や威嚇によって、黄海、南シナ海、東シナ海、台湾海峡、中印国境などで自国の利益の拡大を図り、周辺諸国の安全保障を脅かしてきた。

■ 中国政府は、「一帯一路」も軍事拡張の手段にすると表明している。

■ 習近平政権は「軍民融合」を国策としており、企業も商業的な取引を通じて中国の軍事目的に寄与させられることが多い。

■ 中国の軍事力は、国際的商業取引の輸送路やサプライチェーンの支配にも利用される。

■ 中国政府は、軍事組織を使って他国の情報や通信の技術を盗用し、サイバー攻撃などを実施する。ファーウェイやZTEなどの大企業も、人民解放軍の指令を受けて他国の安全保障システムに侵入する。


米国がとるべきアプローチ

 以上を総括して、米国がとるべきアプローチは次のとおりである。

■ 中国は、民主主義を貶める目的で、西側の自由民主主義陣営に関する虚偽情報を流し、米国とその同盟諸国、友好諸国との間の離反を図ろうとしている。

 自由で開放された法の統治に基づく国際秩序を弱め、歪めようとする中国の活動を、米国は許容しない。

「米国は戦略的に後退し、国際安全保障の誓約も放棄しつつある」という中国共産党の宣伝を断固として排斥する。

■ 米国は、主権、自由、開放性、法の統治、公正、相互主義という価値観を共有する同盟諸国と共に努力を続ける。

■ 米国は、中国側からの対話のための「前提条件」や「雰囲気醸成」の求めには応じず、具体的な結果と建設的な前進だけに価値を認める。

 中国政府は貿易と投資、表現と信仰の自由、政治の自主と自由、航行と航空の自由、サイバー攻撃や知的財産の盗用、兵器の拡散、国際公衆衛生など、多くの領域で公約を履行していない。

 中国との合意には、厳格な検証と執行のメカニズムが不可欠である。

■ 米国は、中国の国民との率直な話し合いと指導者の誠実さを求めたい。

 そのため意思疎通のチャンネルは保ち続けるが、中国との折衝は国益に基づく選別的な関与となる。

■ 米国政府は中国に対し、「力に基づく平和」の原則により、自由で開かれた世界の実現を目指す。


米国のこれまでの対応

 トランプ政権は過去3年にわたって、中国に対し、以下のように対応してきた。

■ 米司法省は、「中国構想」という方針の下、中国の経済スパイ、対世論工作、政治謀略などを取り締まってきた。

■ ホワイトハウスや国務省は、米国内の中国の外交官や留学生に新たな規制を課し、中国側の自称ジャーナリストも国家工作員と見做して規制の対象とした。

■ 大統領は新たな行政命令によって、中国側の米国研究機関への浸透、大学への影響力行使、通信分野への介入、高度技術の盗用などを防ぐ措置をとった。

 特に同盟諸国と協力して、中国側の諜報活動やサイバー攻撃への対策の強化を図った。

■ 米国政府は、高度技術や知的所有権などを盗用する中国の不公正な経済慣行を終わらせ、米国の産業界や労働者、消費者の利益を守る。

 そのため、中国製品への懲罰的な関税など強硬な手段をとってきた。

■ 米国は、第2次世界大戦終結以来の国際秩序の堅持を目指し、その秩序の侵食を図る中国の動向に反対してきた。

 特に香港の住民の自由は重要である。トランプ大統領、ペンス副大統領ら政権の高官は、中国政府に対して国際公約である香港の「一国二制度」を保つことを要求してきた。


米国の今後の対中戦略

 今後、米国がとるべき戦略は、以下のとおりである。

■ 米国は、5GやAIの分野でも、中国の不公正な挑戦を排除し、米国の優位を保つことに努力する。

■ 米国は、日本および欧州との提携を強めて、中国の不透明な経済慣行の排除に全力を挙げる。

■ 米国は、中国の軍事力増強に対して、核戦力の総合的な強化、通常戦力の増強によって抑止力を保つ。

■ 中国は世界最大規模の中距離ミサイルを保有しているが、米国はその管理や削減のための交渉を呼びかける。

■ 中国は、サイバー空間や宇宙でも軍備を強化して、超音速の兵器の開発も進めている。米国はそれらの分野でも中国を抑止できる能力を確保する。

■ 中国は、特に東アジア、インド太平洋という地域で、軍事力大増強による覇権の確立を目指している。米国は、日本などアジアの同盟諸国と連帯を深め、兵器供与を拡大する。

■ 米国は、台湾との非公式な関係をさらに増強する。中国の台湾有事を念頭に置いた軍事大増強に対して、米国は台湾の自己防衛態勢の構築に支援を続ける。2019年に米国は台湾に合計100億ドルを超える兵器を売却した。

■ 中国は、専制的統治、言論抑圧、汚職、略奪的な経済慣行、民族や宗教の多様性への抑圧を続けている。米国は、国際的な呼びかけを通じてそれらに歯止めをかけ、米国の価値観に基づく影響力の拡大を図る。

■ 米国は、ウイグル人、チベット人、仏教徒、キリスト教徒、気功集団の法輪功信徒らの基本的な人権を守るために支援する。

 2019年2月には、米国務省が初めて「国際宗教自由連盟」の集会を開き、全世界から25の国や地域、民族の代表が集まった。

■ 米国は、中国との長期にわたる戦略的な競合を意識して、原則に基づきながら現実主義に立脚し、米国の利益を守り、影響力を広めることに努めていく。




 以上が、米国政府の対中戦略をまとめた公文書の概要である。

 米国の対中戦略では、日本など同盟諸国との緊密な連携が強調されている。

 謂わば対中包囲網による対中孤立化戦略である。

 この機会に日本政府は旗幟を鮮明にし、米国の対中戦略に積極的に協力すべきである。

 最近までの安倍政権のように、未練がましく中国に秋波を送り続けていれば、国際社会からの誤解を受けるだけである。

 人権侵害と虐殺を続ける中国共産党との「友好」など決してあり得ない事を肝に銘じるべきであろう。



対中依存から脱却した安倍政権


 6月10日、安倍首相は衆院予算委員会における玉木雄一郎議員(国民民主党)の質問に対する答弁で、中国の「国家安全法制」導入に対してG7(先進国首脳会議)で共同声明を出す調整をしている事を表明し、「G7が世界の世論をリードする使命を認識しながら、香港の問題は一国二制度を前提に考え、日本がG7の中でリードしていきたい」と述べた。

 さらに安倍首相は、「G7の存在意義は自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値を共有する国々が集まり、世界をリードすることにある」と答弁した。

 国際社会に向けて我が国の立場を明確に示すという意味でも、今回の安倍発言は評価できるであろう。

 この安倍首相の国会発言に対し、中国当局は直ちに反応し、抗議をしてきた。

 中国外交部の華春瑩報道局長は、10日の定例記者会見で、「日本側に重大な懸念を表明した」と述べた上で、「(香港問題は)完全に中国の内政問題であり、いかなる外国も干渉する権利は無い」などと主張した。

 それに対し菅官房長官は、11日午前の会見で、「日本として香港問題への深い憂慮を中国側に示した」事を明らかにした。

 これまで親中派外務官僚(チャイナスクール)の言いなりに動かされてきた安倍政権であるが、香港国家安全法制導入や、度重なる中国艦船による尖閣侵入により、ここに来てようやく目が覚めたようである。

 すでに米国では、昨年来、「香港人権・民主主義法」や「ウイグル人権法」が相次いで成立し、人権侵害を続ける中国当局に対し、制裁を視野に入れた圧力をかけている。

 もし安倍首相が、本当にG7の共同声明において主導権を握りたいのであれば、先ずその前に、我が国の国会において、香港の人々の人権を守る為の法案を成立させる努力をしなければならないだろう。

 これまでさんざん媚中外交を繰り返し、挙句の果ては習近平を国賓として迎えようとしていた安倍首相が、今さら口先だけで対中非難を表明したところで、国際社会からは決して信用されない。

 先ずは、人権を重視するG7諸国を見習って、中国に対し抗議すべき事は抗議し、対中制裁をも視野に入れた法案を国会で議論する等の努力が、安倍政権には必要である。

「G7の中でリードしていきたい」などと公言できるのは、それから後の話である。

 本HPでも繰り返し解説してきたように、「重大な人権侵害や虐殺などを行う国家や政府に対しては、他国が内政に干渉しても構わない」というルールが、現在世界における国際法のスタンダードでありコモンセンスである。

 米国で成立した「香港人権・民主主義法」や「ウイグル人権法」も、そうした文脈で理解されるべき立法行為であった。

 中国のように、「完全に内政問題であり、いかなる外国も干渉する権利は無い」などと時代錯誤の国際法解釈を振りかざして、人権侵害や虐殺を続ける国家や政府が、21世紀の世界に存在する事は許されないであろう。











《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




 定款(PDFファイル)




《連絡先

一般財団法人
人権財団本部
〒100-0014
東京都千代田区永田町2-9-6
十全ビル 306号
TEL: 03-5501-3413