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FMラジオ番組
「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













「コロナ危機後」の世界とは


国民国家とグローバル化の終焉


[2020.4.15]




グローバル化した世界
PHOTO(C)NASA



世界的経済崩壊の始まり


 3月11日、世界保健機関(WHO)による「パンデミック(世界的大流行)宣言」が出され、それを契機に世界中で経済停滞が始まった。

 米国では翌12日、NYダウ平均株価が過去最大の下落幅を記録し、それまで楽観的だった米トランプ政権は、3月13日、国家非常事態宣言を発した。

 平時であれば毎週20万件から30万件程度の米国の「失業保険新規申請件数」は、3月15日から僅か3週間で計1680万件に上った。これは、失業率10パーセントを超える水準である。

 グテーレス国連事務総長は、今回のコロナ危機について、「第2次世界大戦以降、最も未曽有の事態が世界で起こっている」と評した。

 それでは、今後の世界は果たしてどのような変貌を遂げるのだろうか。

 このコロナ危機が短期間で収束するか、あるいは逆に長期化するかによって、今後の世界の在り方は全く異なったものになる。

 現在、先進諸国の多くは、非常事態に伴う民間への補償として、大規模な財政支出を行っている。

 一部評論家の中には、今回のコロナ危機を契機に、「日銀が輪転機で大量に紙幣を刷って、政府が国民にバラ撒けば良い」、あるいは「今こそベーシックインカムを実行すべきだ」などと無責任な発言をしている人もいるが、それが可能なのは、実体経済における供給過多という条件下のみである。

 国民の生命が国の借金よりも大切なのは言うまでもない事であり、緊急時の応急措置としての財政支出は積極的に行うべきである。ただしそれは、あくまで事態の早期収束が大前提であるという事を忘れてはならない。

 もしコロナ危機が長期化した場合は、国家が崩壊の危機に瀕する可能性が高い。これは単に財政破綻の事だけではない。

 現状が継続すれば、いずれあらゆる分野で生産体制が崩壊し、社会全体が供給停止の事態に陥り、国家や社会の機能が麻痺する事が予想される。

 今回のコロナ危機は、リーマンショック時のような金融危機とは根本的に異なり、実体経済そのものを直撃する未曾有の事態であって、その被害規模は戦争被害に匹敵するとも言われている。

 2008年のリーマンショックは、金融分野における危機であった為、実体経済への波及が拡大する前に、大規模な金融緩和をすれば解決出来る問題であった。

 また、過去20年間の我が国において見られたデフレの要因は、マネーサプライの不足によるものであった。それは供給過多と表裏一体の関係にある為、日本のバブル崩壊後の長期不況は、供給過剰恐慌に分類される。

 供給過多によるデフレ状態であれば、大量に金融緩和をして総需要を増やしさえすれば克服可能であった。

 ただし、今回のコロナ危機に関しては、決して過去の「成功体験」に基づいて対応してはならないケースである。

 すでに世界規模での生産縮小によって、国内工場だけではなく、グローバルなサプライチェーン(供給網)全体での製造能力が失われ、供給不足が始まりつつある。

 これまで多くの経済学者や評論家によって、「現代社会では通貨量をいくら増やしてもハイパーインフレは起こらない」などという説が唱えられてきた。ただしそれらはいずれも、「社会全体に供給が十分ある場合」という条件付きである。

 今後、世界的な生産停止に伴う供給不足により需給逼迫の状態となれば、上記の前提は根本から崩れ去ることになる。

 供給不足の状態で、通貨当局によって際限なきマネーサプライが行われた場合には、制御不能のインフレーションになる事は、ほぼ確実である。

 第一次大戦後のドイツで発生したハイパーインフレの原因は、深刻な供給不足にあった。大戦によって生産手段が崩壊したドイツでは、必要な物が何も手に入らない状態に陥り、物価は最高で384億倍にまで達し、パン1個が1兆マルクになった。

 2020年の現時点においては、各国が独自に大規模な積極財政を実行しても問題は表面化していない。

 しかしながら、コロナ危機が長期化して世界中で生産体制が失われ、供給不足の状態になれば、話は全く違ってくる。

 日本のデフレ経済やリーマンショックの時とは全く異なり、今回のコロナ危機が長期化した場合には、積極財政が国家破綻への引き金になりかねないのである。



孤立化する国家とグローバルな人々


 1989年の冷戦終結後、30年間にわたってグローバル化に向けて流れてきた世界の潮流が、2010年代後半にはトランプ現象やブレグジット等に象徴されるように、反グローバル化、孤立主義化、分断化の潮流へと転化した。

 ギリシャ危機に端を発するEUの混乱を契機に、欧州各国で極右政党が台頭し、2019年5月に行われたEU議会選挙では、「EU解体」を叫ぶ勢力が全議席の約3分の1を占めるに至った。

 そうして、今回のコロナウイルスの蔓延によって、世界のグローバル化に終止符が打たれたのだった。

 今や新型コロナウイルスの世界的大流行はグローバル化が根本原因だと見做されるようになり、その収束の為には「脱グローバル化」しか方法はないということで、国境を封鎖し、移動を制限し、経済活動を減らすといった動きが、全世界規模で推進されている。

 各国の指導者達は、グローバルに連携する事よりも、先ずは自国が生き残る為に行動するようになる。

 EU諸国もそれぞれの国境が封鎖され、ヨーロッパ統合以前の状態に回帰しつつある。

「国境の壁を撤廃し、ヒト・モノ・カネ・情報の流れを自由にする」というのがEUの理念であったが、イタリア、スペイン、フランスと、次々に国境が封鎖されていった。

 今後、世界は「統合」から「分断」へと向かい、EUもまた解体へと向かう流れとなるだろう。

 国際社会からの分断、同盟の分断、国民の分断といった事態が、至る所で発生する世界が到来する。

 中国もまた例外ではなく、国家の分裂という危機は避けられないであろう。

 歴史的観点から見れば、過去30年間の「グローバル化」の世界潮流がもたらしたものは、中国の覇権大国化と、米国の世界リーダーからの転落であった。

 天安門事件以降、この30年間にわたる中国の覇権主義は、グローバル化の世界的潮流に合わせて展開されてきた。

 中国は「グローバル化」の理念を自らの武器に転用しながら、製造業のグローバルなサプライチェーンを掌握して世界経済の首根っこを押さえつつ、「一帯一路」という中国版グローバリゼーションによる世界征服に向け邁進してきた。

 しかしながら、コロナ危機によってグローバル化が終焉し、世界が「分断」へと向かえば、中国が目指す世界覇権も「分断」を余儀なくされる。

 グローバル化の終焉は、世界的バブル経済の終焉でもある。

 2020年代以降の世界は、バブル崩壊後の日本のように、世界経済が長期にわたり停滞する可能性が高い。

 中国共産党の支配が、天安門事件以降30年間にもわたって14億人の国民に受け入れられたのは、中国がグローバリゼションの恩恵によって経済成長と好景気を実現し得たからに過ぎない。

 世界的バブル崩壊と中国経済の低迷は、中国共産党支配への疑問と反発をもたらし、その影響はボディーブローのように後になるほど大きく効いてくるであろう。

 では、世界が「分断」に向かえば、今後再び「国民国家」の時代に戻るのかと言えば、そうではない。

 世界が「分断化」し、国家が「孤立化」に向かっていても、そこに住む人々の意識や行動様式は、すでに「国民」ではなく、「ローカルな地球人」と化している。

 自宅に封じ込められた人々は、ネットを通じて「全世界」と繋がり、それぞれ独自のバーチャルで多様な空間に生きている。

 今やほとんどの人々にとって、「国家」とは「所属集団の1つ」に過ぎず、「国家の物語」を共有することもない。

 とりわけ「ネット民」と呼ばれる人々は、国家が破綻しても、ネットを通じて生き延びる術を得てゆくだろう。

 2020年以降は、「国家をあてにしない生き方」が求められる時代である。

 このことは、日本でも中国でも欧米でも同様である。

 過去30年間にわたる情報技術の進歩によって、「一元的統治」という意味での「国民国家」は終焉した。

 今後は、「法人としての国家」と「地球人としての個人」が共存する多元的世界として、人類社会を理解しなければならないだろう。

 人々は、「グローバル化」を全く意識しなくても、すでにグローバルに生きている。それがグローバル社会である。











《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




 定款(PDFファイル)




《連絡先

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