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FMラジオ番組
「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













日本の国家戦略の大転換を


─ 米トランプ次期政権について ─


[2016.11.11]




PHOTO(C) TIME
大統領選の勝利宣言をするトランプ氏



120年ぶりに国家戦略の大転換を図る米国



 11月8日に実施された米大統領選挙の結果、次期大統領はドナルド・トランプ氏に決定した。

 トランプ次期大統領の政策理念の基本は、「アメリカ・ファースト」であり、従来の国家理念であった「多様性ある国家」を否定し、不法移民の規制を唱え、「アメリカ人の為のアメリカ」を目指している。

 トランプ氏は選挙期間中、不法移民によって奪われてきた米国民の仕事を取り戻すことや、国内産業を衰退させてきた北米自由貿易協定(NAFTA)の撤廃やTPPからの即時脱退などを唱えてきた。

 こうした主張が、現状に不満を持つ白人貧困層の強力な支持を得たのであった。

 トランプ次期大統領が国内産業の再生や失業問題の解消に尽力するのは大いに結構なことであるが、問題は外交戦略にある。

 3年前にオバマ大統領は、「米国は世界の警察官を辞める」と宣言したが、実際には実行しなかった。依然として米国は、世界秩序の原状変更を企てる国家に対しては、断固たる制裁措置の意思を示していた。

 しかしながらトランプ次期大統領は、これから本格的に米国を孤立主義へと転換させ、世界各地に展開中の米軍基地の撤収と、保護主義貿易への移行を図っている。

 これは、ある意味で米国本来の姿に回帰しようとする流れでもある。

 歴史を振り返るならば、米国は独立戦争後、かつての宗主国であった英国の影響力を排除するため、フランス革命後のフランス共和国と同盟を結んだりしていたが、ナポレオンの敗北などで痛い目に遭った結果、1823年、ヨーロッパの政治や経済とは一切関わらない事を、国家の基本方針に定めるに至った。

 この米国の孤立主義政策は、当時の大統領の名を取ってモンロー主義と呼ばれるが、これはその後75年間にわたり19世紀米国の一貫した国策になった。

 やがて19世紀末になり、辺境を失った米国は、天才的海軍思想家のアルフレッド・マハンの世界征服構想に基づいて、太平洋への進出を考えるようになる。

 かくして米国は、1898年に米西戦争を引き起こし、スペインに代わってハワイやフィリピンを支配し、さらに1914年にはパナマ運河を建設して世界最強の太平洋艦隊を創設し、太平洋を支配するようになった。

 その後、米国は日本を打ち負かして極東を支配し、さらに東南アジアや中東の支配にまで至るのであるが、このような米国による対外的覇権主義政策は、あくまで1898年の米西戦争から始まったものであり、本来の合衆国建国の精神とは懸け離れた政策であった。

 もっとも、20世紀半ば以降は、ソ連のような凶暴な覇権主義国家に対抗する必要もあり、米国が自由世界のリーダーとして活躍していた事も事実であるから、全否定するべきではないが、だからといって全肯定するような事でもない。

 ただ20世紀後半から今世紀にかけて、米国は正規軍だけが相手なら決して負けないが、ベトナム戦争では「ゲリラを相手にしては勝てない」ことを知り、さらにシリア内戦では「テロリストを相手にしても勝てない」ことを知った。

 したがって、オバマ大統領が2013年に「世界の警察官を辞める」と宣言した事は、米国の能力の限界を鑑みれば、極めて真っ当な選択であったし、それを本格的に実行しようとしているトランプ次期大統領も、決して異常な人物ではない。

 むしろ、これまで120年間にわたる米国の対外的覇権主義こそが、異常な姿であったと言えよう。



「アメリカ・ファースト」とは「米国は米国だけ守れば良い」という意味


 かつて「パックス・ブリタニカ」(英国による世界平和)を実現し、世界の海を支配していた大英帝国が、20世紀には全ての植民地から撤退して、元の小さな島国に戻っていった歴史を思い起こすべきであろう。これは、累積赤字に苦しむ植民地経営を放棄した方が、本国にとって有利であるという経済理論に基づいた政策であった。

 歴史は繰り返す。20世紀における大英帝国の如く、21世紀は米国が世界中から撤退する番である。

 このように米国が元通りの「普通の国」に戻ること自体は悪い事ではないのだが、問題は、世界の各地域に力の真空地帯が発生してしまうことである。

 米国の戦略としては、シリアをはじめ混乱状態の中東の統治についてはロシアに任せ、一方、核保有国となった北朝鮮への対策や極東の秩序維持については中国に肩代わりさせる形で、「世界の警察官」の役割から降りようとしている。

 あたかも、警察組織の規模縮小に伴って、地域のヤクザに治安を委託するようなものである。

 そのような事は、これまで米国に頼ってきた国々の立場からすれば、堪ったものではない。

 しかしながら米国は、すでに「パックス・アメリカーナ」を放棄し、世界の警察官などやる余裕すら無いまでに事態は逼迫しているのである。如何に米国の内情が深刻であるかが見受けられよう。

 現在の米軍は、志願制のために人材が集まらず、戦闘要員の何割かは民間の警備会社に委託して戦場に送り込んでいるのが実態である。これでは、軍紀が守られないのも当然であろう。

 もはや米国には、海外において軍を展開するだけの能力が無いのである。

 また、現在の米国は貧富格差や人種問題で国家が分裂状態であり、各地で暴動は頻発し、街は失業者で溢れ返っている。

 そうした混沌の渦中から、トランプのようなエキセントリックな人物が、怒れる国民の熱狂的な支持を得るに至ったのである。

「米国は米国だけ守れば良い」というのが、「アメリカ・ファースト」の真の意味である。

 国際社会は、あくまで自己責任の世界である。当然の流れとして、「日本は日本で守れ」という結論に至るのは必然である。やがて米国の「核の傘」が撤去されるのも時間の問題であろう。

 この期に及んで、能天気な安倍内閣や日本の官僚組織は、未だに事態の深刻さを全く理解できず、「これまで通り日米同盟は維持される」などという根拠の無い希望的観測にしがみついている。

 これは心理学でいう正常性バイアスによるもので、現実逃避の一種である。

 もっとも、日本経済の深刻な現状すら認識できないレベルの人達であるから、国際社会の深刻さなど、到底理解不能であろう。

 国際社会の変化にも対応せず、「永遠の微調整」しか出来ない無能な政治家や官僚は、最後には国家を滅ぼすに至る事を知らねばならない。

 米国が120年ぶりに国家戦略を大転換させつつある今日、日本の国策も抜本的な見直しが求められている。















《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




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《連絡先

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